映画版『空母いぶき』は「三流役者」ならぬ「三流映画」だった/古谷経衡

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― 連載「ニュースディープスロート」<文/古谷経衡> ―

◆「三流役者」ならぬ「三流映画」だった『空母いぶき』

 5月25日発売号の『ビッグコミック』誌上で、映画『空母いぶき』の主演俳優のひとり、佐藤浩市氏のインタビューが、安倍総理を揶揄するものとして安倍応援団なる右傾勢力から批判され、佐藤氏に対し「三流役者」などというバカげた揶揄にネット右翼付和雷同する形となった。

 そもそも、当該のインタビュー記事は同号の『空母いぶき』特集の巻頭5頁における1頁にすぎず、誰もこの原稿用紙2枚程度の佐藤氏のインタビューを読まずに、批判する側と擁護する側の無意味な空中戦が行われる結果となった。

 さて、では5月24日から公開の映画『空母いぶき』で、「安倍総理を揶揄する」描写が同映画のなかにあったのかというと、ワンカットもない。それどころか、「安倍総理云々」以前に、この映画には「そもそも映画として異様な完成度の低さ」という別の問題が浮上してしまったのである。

 原作のかわぐちかいじ氏の漫画では、近未来、日中が尖閣諸島を巡って対立するなか、中国人民解放軍沖縄県先島諸島を限定占領することにより、日本は太平洋戦争後初めての「戦争」に突入する。つまりこの作品は、現実の国際情勢(特に日中関係)を背景にした高度なポリティカル作品であり、と同時に『沈黙の艦隊』以降、かわぐち氏の得意とするミリタリー作品でもある。

 つまり『空母いぶき』とは、骨太のポリティカル・ミリタリー作品なのだが、実写版ではこの要素が全くないどころか原作改悪のオンパレード。そもそも映画版では、日本の敵として、中国ではなくフィリピン北東部にあるという建国3年のカレドルフ(なぜかこの国家は東亜連邦と名乗る)という新興島嶼国家というふうに設定が改悪されている。

◆映画版『空母いぶき』は原作とは似ても似つかないもの

 そしてこのカレドルフがどんな政体で、どんな人種構成で、どんな歴史を持った国なのかの説明は一切ない。この時点で本作の高度なポリティカル群像という側面は形骸化し、映画としてのリアリティはゼロだ。

 いろいろな方面に忖度したのだろう。実際、麻生幾原作の映画『宣戦布告』(’02年)も、北朝鮮武装工作員の国籍は北朝鮮ではなく「北東人民共和国」という架空の国家に変更されていた。では、軍事的描写はどうかというと、「いぶき」の僚艦の艦長が「本気になると関西弁になる」という設定で、主砲を発射するたびに「いてまえ!」と絶叫するという、頭痛がするシーンの連続。

 さらにお決まりのごとく挿入される反戦平和のメッセージ。要するに映画版『空母いぶき』は原作とは似ても似つかないものであり、点数にすると0点。これなら自衛隊が怪獣や宇宙人と戦ったほうがずっとましで、その意味で庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(’16年)の秀逸さが際立つ。

「総理大臣として成長するさま」として垂水総理役に抜擢された佐藤浩市氏は、演出の稚拙さゆえに、「成長していくさま」が描かれておらず、俳優の配役はすべて製作者の児戯に等しいレベルの低さによって陳腐化されている。こんなふざけた邦画を見るのも久しぶりで、国内は当然だが、到底海外にお見せするような完成度には至っていない。それでも観たければ、2時間超の拷問を受ける覚悟でお好きにどうぞ。  

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